こりゃ、敷金返還訴訟になるな。と、思った私は知人のすすめで
国民生活センター(消費者センター)へ行く事にした。
国民生活センターの扉を開けると
真面目そうなちょっと影の薄い感じの男性が応対してくれた。
個室に通され
「本日はどうされましたか?」とやはり真面目そうな感じで聞かれた。
これまでの経緯を簡単に説明し、見積書と契約書を見せた。
男性は契約書をじっくりじっくりと隅々まで読んでいる。
1枚めくり2枚めくり3枚めくり
1枚戻り・・・2枚戻り
それはそれは契約書に吸い込まれるように丹念に読み込んでいる。
私は緊張しながらそれを見守る。
最後までしっかりと目を通した後、顔を上げると
表情が先ほどまでの真面目顔から“眉間にしわ寄せ顔”に変わっていた。
「書いてませんね。そんな条件」
彼は裁判官でも弁護士でもないが、その一言はとても心強かった。
それから、
「敷金の返還トラブルはとても多いんです」といった話をしてくれた。
住んだ年数にもよるがクロスは破ったりひどく汚した部分のみ修繕費を負担するものであること。
それも新品ではなく減価償却率を考えて算出した金額を請求されるべきである事。
そしていくつか質問された。
男性 「部屋でタバコは吸いましたか?
部屋にカビを生やしてしまったとかは?
破ってしまったとか傷つけてしまったとか全面張替えを要求される心当たりは?」
私 「タバコは吸いません。
カビも生やしていません。
家具がこすれてしまった箇所が少しあるかもしれませんが、写真とか撮ってなくて・・・・。
立会いもなかったのでどの部分を請求されているのかわからなくて・・・。
電話で破損箇所を聞いたのですが『入居する時の条件で、退去する時は全部キレイにして出てもらう条件だ。と伝えてある』の一点張りで・・・。ハァ・・・」
男性 「その条件は聞いていたんですか?」
私 「いいえ。聞いてません。家主さんにお会いした事もないので」
男性 「んー。そうですねぇ。天井までクロス張替えの請求をされているって事はキズや汚れなど関係ないって感じですね。
天井にキズつける事なんてそうないですからねぇ。
あとですね、一応お聞きしましたけど入居時に条件として伝えていたとかいなかったとかの点なんですが・・・。
基本的に、契約書が絶対です!
この契約書にはそういった文言が全く書いていませんので請求されるものではないです。
ここにあるのは『原状回復するための費用を敷金から相殺する事ができる』という事だけです。
原状回復は通常の使用でついたキズや汚れや消耗品についてはあてはまりません。
テレビの裏やレンジの裏の壁が電気焼けで黒くなったり、日当たりの良い窓際に置いたタンスのせいでクロスに日焼けの跡がついてしまったり。
これらは経年劣化とよばれる傷や汚れで、普通に生活していれば誰にでも起こり得るものです。こういったものは通常は家賃から家主さんが修繕するものです。」
そして1枚の用紙をくれた。
『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』
これをわかりやすく説明したものだった。
男性 「これ差し上げますね。
これにも書いてありますが、ハウスクリーニングやエアコンクリーニングは基本的に貸主負担です。
クロスに関しては、私は状態を見てませんので確実な事は言えませんが、通常の使用でついた汚れなら請求はできません。キズなどの内容によりけりでしょうけど。
ゴムパッキン2個?これは・・・アハハ」
家主が送ってきた見積書は笑っちゃうくらいおかしな見積書だったようだ。
で、男性はここでテンションが上がってきて
男性 「こういうトラブルを解決するのに小額訴訟という制度があります!」
これには私もビックリした。
最終的には訴訟もあると思っていたが、それまでに何段階も手順があると思っていたからだ。
甘えた事を言うようだが、
国民生活センターの人が家主や不動産屋に電話をして
『ちょっと!こんなのおかしいでしょ!ちゃんとしないとダメでしょ!』みたいな注意をしてくれて
それでもダメなら内容証明を出してそれで最終的には裁判・・・といった
手順かと思っていた。
とつぜん訴訟する事になった(?)私はやはり動揺してしまい
私 「訴えるのは不動産?家主さん?どうすれば・・・」
男性 「この場合、家主さんですね。契約書にある【甲】にあたる人です。
ですがその前に1度お手紙書いてみましょうか」
そうそう。その流れだよね。
私 「お手紙を出すのに何か気をつける事はありますか?」
男性 「配達記録で出す方法と、内容証明で出す方法があります」
簡単に違いを説明すると
配達記録・・・相手が手紙を受け取ったという証拠が残る。しかし手紙の内容は記録に残らない。内容が証明できないので裁判での証拠にはならない。手紙の内容が盛りだくさんでも比較的費用が安い。
内容証明・・・相手が手紙を受け取ったという証拠が残る。手紙の内容も郵便局に記録が残る。裁判の際に証拠として提出する事ができる。決まった様式で記入する必要がある。枚数によって金額が変わるので言いたい事がたくさんある場合には費用が高くなる。
男性のおすすめパターンとしては
配達記録で思いの丈を綴る。
キレイに住んだ事。契約書に書かれていない修繕費を支払うつもりはない事。全額返金して欲しいという事。
ここで私も思わず
「え!?全額返してもらえますかね!?」
男性 「あ・・・いえ。ここは全額返金じゃなくてもいいです。返して欲しい金額でいいです。フフフ」と
ちょっとテンションが上がりすぎた事を照れていた。
でも、全額返してもらえるんじゃないの?って思えるような内容なんだろうな・・・・と自信がついた。
で、私も「どうせダメもとなんで、全額返金でお手紙書いてみます。フフフ」と
テンションが上がってきた。
よくあるパターンでは、このお手紙で家主側が
訴訟など面倒な事を避ける為にかなり譲歩した案を出してくる事が多いという。
とにかくこちらの『言いなりにはなりませんよ。泣き寝入りはしませんよ。本気ですよ』を、いかにしっかりと伝えるかという事が重要なのだという。
そして、それでも相手が譲らない・もしくは無視するようなら
内容証明で簡潔に
敷金返して下さい。ダメなら法的手段に訴えます。
といった内容のものを送る。
そしてそれでもダメなら
小額訴訟に移行する。
以上がおすすめパターンのようだった。
私もそのパターンで攻めて行く事に決めた。
そして、男性はお手紙にどんな風に書けばいいのかは
例文がインターネットなどで検索できるのでそれを参考にしたら良いと教えてくれた。
さらに小額訴訟についての小冊子と裁判所の地図を渡してくれた。
裁判所の代表電話番号や最初に行く窓口の説明も丁寧にしてくれた。
何度も何度もお礼を言って、国民生活センターを後にした。
こんなにも親切に甲斐甲斐しくしてくれるものだとは思わなかった。
国民生活センターを後にする時には、真面目そうな影の薄い感じの彼がとてもステキに見えた。
だって彼はピンチを救ってくれたヒーローだから
頑張って家主さんにお手紙書かなくちゃ。

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